第1回沖縄平和賞
第1回沖縄平和賞受賞挨拶
ペシャワール会現地代表中村哲
今回の受賞に当たり、まず、過分の御評価に感謝申し上げます
戦乱の中に平和を追い求めるのは、決して容易ではありません
昨今の日本の風潮も「対テロ戦争やむなし」という論調一色で塗りつぶされ、アフガニスタンで医療活動や水源確保事業を続けるペシャワール会も、誤解や不審の目で見られたことがあります。
私たちのアフガニスタンでの長期の活動は、日本の心ある人々の異例とも言える支持を受けましたけれども、それでも、日本全体の平和への願い、独立した平和国家の誇りを本当に保ち得たかというと、心もとないものがあると言わざるを得ない、という気が致します。そういう中で、私たちの活動を「非暴力による平和への貢献」として沖縄県民の皆様が認めて下さったことは特別に意味のあることだというふうに受け止めております。
遠いアフガニスタンでの活動と、アフガンに出撃する米軍基地を抱える沖縄、このコントラストは現場にいる私たちにとっては圧倒的であります。平和を唱えることさえ暴力的制裁を受けるという厳しい現地の状況の中で、その奪われた平和の声を、基地の島沖縄の人々が代弁するのは現地にいる日本人としては非常に名誉なことでございます。
私たちの活動をしておりますアフガニスタンやパキスタンでは対米協力をしないと飢え死にするか、国が無くなるという選択を強制されているというのが実情でございます。何千人もの人が空爆で死に、何万人もの人がそれに伴う飢餓で死にました。
沖縄の抱える矛盾、これは凝縮された日本の矛盾でもありますけれども、米軍に協力する姿勢を見せないと生き延びれないという事情は、実は彼の地でも同じです。基地を抱える沖縄の苦悩は、実は、全アジア世界の縮図でもあるということを是非お伝えしたいと思います。
今回の平和賞は、人としての誇りを失いがちな世界に一矢を報いるものでございます。平和賞を巡る議論があることも私たちは承知しております。しかし、平和とは少なくとも沖縄においては、政治的立場を超えて全県民が切実な思いで求めておられるものと確信しております。
幾百万、幾千万のアジアの同胞の犠牲の上に、「平和日本」が高らかに謳われたのはほんの半世紀前、60年前のことでした。しかし、今その教訓が風化しているという現実がございます。命の大切さに民族や国境の垣根は決してありません。
確かに今、私たちに即席の解決というのは難しいでしょう。それでも私たちは次の世代に向けて平和への願いを真摯に訴え続け、やがて力となっていく流れと希望を生むことは出来ると思います。
平和賞で送られた浄財は、アフガン東部山岳地帯の村、ダラエピーチという所に建設中の診療所に使わせて頂き、これを「オキナワ・ピース・クリニック」と名付けます。戦乱の地にあえて平和の礎を築くのであります。
暴力によって立つ者が暴力によって滅びることは人類史上の鉄則であります。私達に贈られた平和賞は、いかなる立場も超えて未来への第一歩として力を持つことを心から祈るものであります。
最後になりましたけれども、今回の受賞を巡って御努力下さった関係者の皆様方に厚く御礼申し上げます。
平成14年8月30日
ペシャワール会現地代表 中村哲
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