2.海にたい積した赤土等の調査方法

ページ番号1004459  更新日 2024年1月11日

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1. はじめに

陸の赤土等が雨によって川や排水路などに運ばれると、最終的に濁水となって海に流出します。海水より比重の軽い河川水は海面をすべるように広がるため、海面が流れた土の色で濁っていく様子を見ることができます。やがて濁水に含まれる細かい土の粒子は海底に沈みますが、赤土等の流出が頻繁な海域や閉鎖性の強い内湾では、土の細かい粒子が泥状にたい積することになります。海底や干潟の砂や泥などをひとまとめにして底質と呼びますが、底質の中に含まれる赤土等に由来する細かい土の粒子の量を測定することで、赤土等による汚染の程度を知ることができます。ではどうやって赤土等の量を測ることができるのでしょうか。底質を水に入れてよく混ぜると砂はすぐに沈みますが、赤土等に含まれる細かい粒子はしばらくの間、水の中に濁りとしてとどまります。この性質を利用して、一定量の水に底質を量り入れ、水中でよく混ぜたときの水の濁りの程度から底質に含まれる赤土等の量を測ることができるのです。ここでは海にたい積した赤土等の調査方法について具体的に紹介します。

2. 底質の採取

(1)採取地点

地図や海図でだいたいの調査場所を決めたら、なるべく調査前に現地の状況を見たり、現地の情報を収集してから、底質の採取地点を決めます。底質を採取する地点は、赤土等が流入する河口付近や海岸への側溝排水口付近が中心になりますが、河口正面と河口の両側などのように、少なくとも2~3地点で底質を採取したほうが海域の平均的な汚染状況がわかります。また、赤土等の影響を調べるために、魚場やモズク養殖場あるいはサンゴ群落のある地点などの底質を採取することもあるでしょう。採取地点はくぼ地のように赤土等が厚くたい積しているところだけ選ぶのではなく、全体に平均してたい積しているような場所を数点選ぶほうがよいでしょう。また、海底や遠浅の干潟以外、つまり普通の浜では赤土等のたい積はあまり見られません。このような干潮時に干上がる浜(干出浜)では流出した赤土等は波に洗われ、短時間のうちに拡散していくからです。したがって普通の浜ばかり選んで調査をしても赤土等の流出の実態はなかなかわかりません。

写真:採取の様子1

写真:採取の様子2


(2)採取時期

礁池や遠浅の干潟の場合、赤土等のたい積の程度は季節によっても変化が見られます。5月から6月にかけて沖縄では梅雨の時期ですが、雨の多いこの時期に赤土等が海に流出しやすいため、梅雨が明けたあとの海底や干潟では赤土等のたい積量が最も多くなる傾向があります。下の図は沖縄島西岸の恩納村赤瀬礁池の赤土たい積状況を調べたものです。7月から9月にかけて台風が接近するようになると、台風の波浪でたい積した赤土等の泥が外洋に移動していきます。また、11月~3月頃は北東の季節風が強まるため、特に西側の海域では海底の浄化が進みます。このようなことから、海の赤土汚染の実態を知るには、底質の採取時期はきわめて重要な意味をもちます。また、小さな礁池の場合、たいてい水深が浅いので干潮になると礁池内のところどころが干上がってしまい、船で移動できなかったり、泳ぎながらの移動でも調査に時間がかかることがあります。このような海では潮位表から潮位を調べ、日中にある程度水位がある日を選んで調査する必要があります。逆に、干潟での調査では干潮時に合わせて日程を組んだほうがよいでしょう。

グラフ:赤瀬礁池の赤土たい積の動態


(3)採取方法

採取する底質の量は約200~500ミリリットルくらいです。スコップで底質を4~5センチメートルの深さで取り、ふたのあるプラスチック容器やタッパーなどに移します。ビニール袋だとサンゴのかけらで破れたり、後の処理がやりにくいので、おすすめできません。水中で底質を採取する場合は泥が舞い上がらないよう注意しましょう。容器内の濁りがおさまれば上澄を捨てます。有機物の多い試料はそのままにしておくと藻が発生したり、黒くなってしまう場合があり、あとの測定に影響します。水を切ったあとすぐに測定する時間がなければ冷蔵庫に入れて保存しておいたほうがよいでしょう。

写真:採取の様子

(4)採取記録

底質を採取した年月日と場所がはっきり分からなければせっかく測定しても測定値に意味がありません。また、調査を継続する場合は同じ場所で底質を採取することが必要になります。そこで、底質を採取するときに採取した年月日と場所を記録します。場所を記録する場合、例えば海岸の堤防の端から西に50メートルとか、沖に突き出た岩礁の東側などのように目印になるようなポイントを軸に採取場所を記録します。海上の場合、船で調査できるなら道具を使わない「山立て」と呼ばれる方法で位置を定めたり、人工衛星の電波で位置を決めるGPSという機械を利用する方法があります。船が利用できず底質採取地点まで泳いで行く場合は、採取地点から陸側の2~3方向をカメラで撮影します。本格的な水中カメラでなくても最近は水深3メートルまで撮影可能なインスタントカメラもあります。海中に潜って採取地点の海底の様子を撮影しておくとなおよいでしょう。あとで現像した写真を見て、それぞれの方向の延長線上にあって重なる目印、例えば「西の方向に山の高圧電線塔と道路標識が重なる地点」で、かつ「北の方向にある橋の橋脚と丘にある建物の赤い屋根の端が重なる地点」などのように記録すれば、採取地点が特定できますし、海底の様子を写した写真があればより正確に採取場所を特定することができます。また、地図上に採取地点を記録することも忘れてはなりません。

3. 準備する器具

準備する器具は30センチメートル透視度計のほか、栓がついた500ミリリットルメスシリンダー2~3本、計量スプーン1組(5、10、50、100ミリリットル)、4ミリメートル目のふるいです。必ずしも理化学機器を購入する必要はありません。500ミリリットルのペットボトルや園芸用のふるい、料理用の計量スプーンで十分代用できます。また、透視度計は手作りも可能ですが、ずっと使うのであれば購入するほうがよいでしょう。数千円から1万円くらいで市販されています。

4. 測定の手順

(1)ふるいがけ

写真:ふるいがけの様子

採取した底質はふるいで小石やサンゴのかけらなどの大きなものを取り除きます。まず、底質を容器からふるいに移し、スプーンやヘラなどですり込むようにしてふるいを通していきます。ふるいを通した底質はよくかき混ぜて別のプラスチックカップなどの容器に移します。これを赤土等の含有量測定用の底質試料とします。

(2)計量

写真:計量の様子

計量スプーンで底質試料を量ります。カップの試料は長らく置いておくと泥と砂が層状に分離することがあるので、量る前にもう一度よくかき混ぜます。底質試料をすりきるようにしてスプーンに取ります。スプーンの裏がわについた余分な底質は除きます。底質試料の量は透視度が5~30センチメートルの間に入るように計量します。

(3)濁水の調製

写真:濁水の調製の様子

計量スプーンの底質試料を500ミリリットルメスシリンダーに水で流し込みます。水は水道水でかまいません。このとき、じょうごとポリ製の洗浄瓶があると便利です。底質試料を全部流し込んだら、500ミリリットルの標線まで水を加えます。

(4)振り混ぜ

写真:振り混ぜの様子

メスシリンダーに栓をして、メスシリンダーの底と栓の部分を両手でしっかり押さえながら5回以上、激しく上下ひっくり返して振ります。

(5)希釈

写真:希釈の様子

濁りの度合いが強く、試料量を少なくしても透視度が5センチメートルより下になりそうな場合は、振り混ぜた後すぐに一定量を分取して別の500ミリリットルメスシリンダーに移し、標線まで水を加えて希釈します。それからもう一度5回以上、激しく上下ひっくり返して振ります。

(6)静置

写真:静置の様子

メスシリンダーをテーブルの上に置いて、正確に1分間、砂等が底に沈むのを待ちます。

(7)透視度測定

写真:透視度測定の様子1

写真:透視度測定の様子2


メスシリンダー内の濁り水を泡立てないように透視度計に静かに移し、透視度を測定します。透視度計の使い方は以下をご覧下さい。

(8)赤土等の含有量の計算

透視度の読みから底質中の赤土等の含有量を求めます。それにはSPSS換算表を利用すると簡単に求めることができます。(SPSS換算表) また、計算式で求めたい方は次の式を使って計算できます。

C={(1718 ÷ T)-17.8}× D ÷ S

C : 底質中の赤土等の含有量( kg/m3 ) T : 透視度( cm )

S : 測定に用いた試料量( ml ) D : 希釈倍=500/分取量

(9)平均値の計算

海域ごとに赤土等による汚染の程度を比較するために底質中の赤土等の含有量の平均を計算することがあります。ところがこの場合、普通の平均値の計算方法と違って、それぞれの含有量を対数値に変換したあとで単純平均しなければなりません。さらに、この平均値は対数で表現されているので、もとの濃度として表現するためにはこの対数値を指数に置き換えて計算しなおさなければなりません。どうしてこのような複雑な計算になるのかというと、底質中の赤土等の含有量は1立方メートルあたり1キログラム以下から約1000キログラムまで幅広く分布していて、20~30キログラムを中心に対数正規分布するためです。

5. 測定結果の評価

底質中の赤土等の含有量と底質の外観、つまり現場の状況は下の図のようによく対応していて、9つのランクにわけることができます。これまでの経験から、底質中の懸濁物質含量が1立方メートルあたり50キログラム未満、すなわちランク5b以下の場合、波浪により岩や砂が研磨されたものや生物活動により生じたものなど自然界由来のものからも懸濁物質が発生していると考えられます。これに対し、懸濁物質含量が1立方メートルあたり50キログラムを超えると、すなわちランク6以上からはあきらかに人為的な赤土等の流出による汚染とみなすことができます。なお、下の図では底質中の赤土等の含有量のことを懸濁物質含量(SPSS)という言葉で表現しています。なお、SPSSは content of Suspended Particles in Sea Sediment の略です。

グラフ:海域底質中の懸濁物質含量
海域底質中の懸濁物質含量
グラフ:海域底質中の底質の状況
海域底質中の底質の状況とその他の参考事項

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