第1章ユニバーサルデザイン推進の背景
1 ユニバーサルデザインについて
ユニバーサルデザインの考え方・定義
「ユニバーサルデザイン」とは、Universal(普遍的な、全体の)とDesign(設計、構想、計画)という英単語が合わさったもので、その頭文字をとってUD(ユーディ)とも呼ばれます。「特に改造などしなくてもはじめから、できるだけすべての人が利用しやすいように製品、環境をデザインする(つくる)」と定義され、年齢、性別、国籍(言語)、身体能力等の個人差に関わらずそれを利用するすべての人を対象として、それら個々人の多様性から要求される様々なニーズにできる限り対応する「もの」をつくる、という考え方です。
近年、科学技術の発達や、情報化等により、誰にでも利用しやすい、便利なものが増加しつつありますが、まだまだ他にもこういったものをつくる必要があると考えられています。すべての人が利用しやすいものをつくるとはいえ、実際には物理的(技術的)な問題を含めて困難な場合もあります。ユニバーサルデザインは、ものをつくるときに目標とすべきものを表す、ヒントになる考え方なのです。
ユニバーサルデザインとバリアフリー
高齢者の増加や障害者の社会参加に伴い、急速に広まった「バリアフリー」は、高齢者や障害者が利用しやすいように建物やサービス等からバリア(障壁)を取り除くという考え方です。
これに対して、「ユニバーサルデザイン」は、バリアフリーのように高齢者や障害者だけを対象とするのではなく、すべての人にとって利用しやすいものをついものをつくるという考え方です。くる、というところから発想し、はじめからバリアの存在しないものをつくるという考え方です。
また、ユニバーサルデザインは「年をとって身体能力が衰えたり、ケガをして一時的に不自由になることもある。また不案内な土地へ行けば移動に制約ができる。(人はある意味)だれでもみな障害をもつ。」という考え方がベースになっています。
たとえ、ユニバーサルデザインを導入しても、バリアフリーが不要になるのではありません。すでにつくられたものに存在するバリア(障壁)はできるだけ減らし(バリアフリー化)、新たにつくるものには、バリアがないように「ユニバーサルデザイン」の考え方を取り入れていくことが求められているのです。
多目的トイレ
高齢者、車イスの方、乳幼児を連れた方等、誰にでも使いやすいよう、広く、手すり(横・縦)、乳幼児ベッド等が設置されている。
大型のスイッチ
物を持ちながらでも、身体障害の有無、年齢を問わず、操作しやすい。
ドアノブレバーハンドル
子ども、高齢者・障害者等、握力の弱い方でも開けやすい。
左右使いハサミ
手の不自由な方でも、年齢、右利き・左利きを問わずに使える。
分かりやすいサイン
国籍、年齢、身体障害の有無等を問わず、誰にでも一目で理解しやすい。
「ユニバーサルデザイン」のはじまり
ユニバーサルデザインは、米国ノースカロライナ州立大学ユニバーサルデザインセンター所長であった、故ロナルド・メイス氏によって提唱されました。建築家であり工業デザイナー、また、自身が身体に障害をもっていた彼は、1980年代にユニバーサルデザイン‘UniversalDesign’という言葉をつくり出し、「特に改造などしなくてもはじめから、(身体能力等の差異に関わらず)できるだけすべての人が利用しやすいように製品、環境をデザインする(つくる)こと」と定義しました。これが、ユニバーサルデザインのはじまりといわれています。また、メイス氏は「機能的で魅力的」でありながら、「(改造するなど)特別なものではなく、(値段が)高くない市場性のある」ものがユニバーサルデザインであるとも述べています。
2ユニバーサルデザイン導入の必要性
少子高齢化問題のために
沖縄県は、一般的に長寿県として知られているとおり、全国に比べ、県の総人口における75歳以上の高齢者の比率が高く、また介護を必要とする高齢者の割合も高い県です。これまで沖縄県では「バリアフリー」施策に取り組み、特に高齢者や障害者の利便性向上に配慮した「福祉のまちづくり」を推進してきました。一方、現在は人口の増加率や若年者の割合が高い県でもありますが、少子化が進んでおり、これに伴い、今後ますます高齢化が進行すると予測されています。将来的には、労働力人口の減少による経済活力の減退等が懸念され、高齢者、障害者を含めた、すべての県民が社会の担い手として役割と責任を果たしていくことが重要となるため、それを前提とした社会環境づくりが必要となります。
すべての人が利用しやすい社会環境へ
これまで、社会環境は基本的に「健常者で平均的な体格の(日本人)成人男性」を基準につくられてきました。しかし、近年では当たり前のこととなった女性の社会参加や児童の人権尊重、増加する外国人への配慮等への対応を考えたとき、これまでのように「高齢者や障害者のため特別にバリアフリー化を施す」というのではなく、「できるだけすべての人が利用しやすい社会環境をつくる」という発想で、障害の有無等、身体能力の差違だけではなく、人間がもつ様々な「個人差」から要求される様々なニーズに、できる限り応えられるよう取り組むことが必要となります。例えば、女性と男性という性差には、「力がある/ない」「体が大きい/小さい」等の身体的、物理的特性以外にもいろいろな性質の違いが認められますし、所属する国や地域等、文化圏が違えば言語の違い、有する知識の違い、習慣の違い等様々な違いがあるはずです。もちろん、大人と子どもにも若年者と高齢者以上の違いがあり、このような差異から、われわれ一人ひとりが「(自分には)利用しやすい」と思っているものが、他の人にとっては、「利用しにくい」「利用できない」ものである可能性もあるのです。
地域産業の活性化を目指して
また、ユニバーサルデザインの考え方は「自分たちが暮らしやすいまちづくり」に役立つだけではありません。「すべての人を対象とした」製品づくり、店舗づくり、「すべての人を対象とした」観光地づくり、ツアー開発等は、顧客満足度の向上や新たな顧客の獲得、地域のイメージアップにつながります。ひいては、県内地場産業の活性化も期待できます。
3指針策定の趣旨
県内のさまざまな地域や分野において、ユニバーサルデザインの考え方を導入した社会環境づくりに取り組んでいくためには、県だけでなく、企業・団体、市町村、県民が、共通の理解と目標を持って、連携して取り組む必要があります。
もちろん、県の施策にユニバーサルデザインを取り入れるにあたっても、各分野において、共通の目標を確認し、それに向かって歩調をあわせ連携して取り組んでいくことが求められます。
この指針は、沖縄県のユニバーサルデザインに関する基本的な考え方をまとめ、施策推進にあたって目指すべき目標とそれぞれが果たすべき、あるいは期待されている役割等を示すために策定しました。
本指針は、ユニバーサルデザインを導入するための「ヒント」であり、「道具」とでもいうべき性格のもので、実際にどの分野にどのような施策を実施し、望まれる社会環境づくりを実現していくかについては、今後、それぞれ詳細に検討していくことになります。
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